この項では、最近新聞に掲載しました裁判事例の中で、
特に注目される事例をpick upして皆様にご紹介します。

※ なお、本項はあくまで研究内容であり、本内容が与える影響の一切は責任を持ちません。予めご了承下さい。


2003年4月10日付・寄稿/当社編集部

 弊社新聞に最近掲載しました重度後遺障害事例(1級相当の後遺障害)を数例取り上げ、
その内容を比較検討し、近年の動向で特に注目する点を取り上げ報告します。


 
裁判所名
判決日
本紙
掲載号
等級
号数
年/性
職業
逸失
利益(円)
後遺障害
慰謝料
将来介護
費用
主因症状
@
徳島地裁/
阿南支部
平成13年
5月29日
1405号
1
3
54歳・男 会社社長   90,177,000円 \30,000,000 \32,964,837 四肢麻痺
A
神戸地裁 平成13年
7月18日
1409号
1
3
51歳・男 タクシー運転手   44,228,000円 \24,000,000 \54,378,065 神経障害
B
東京地裁 平成13年
7月31日
1415号
1
3
24歳・男 大学生  120,085,000円 \30,000,000 \40,500,546 半身麻痺
C
大阪地裁 平成13年
5月29日
1420号
1
3
40歳・男 自動車整備士   87,908,000円 \22,000,000 \32,815,325 植物状態
D
横浜地裁 平成13年
9月14日
1420号
1
3
30歳・女 大学講師   63,914,000円 \26,000,000 \40,824,009 遷延性意識障害
E
京都地裁 平成13年
11月30日
1431号
1
3
57歳・男 和物絞染職人   51,595,000円 \27,000,000 \30,901,812 四肢麻痺
F
大阪地裁 平成13年
6月28日
1431号
1
3
41歳・男 建築業者   75,872,000円 \27,000,000 \33,547,332 四肢麻痺
G
神戸地裁 平成13年
9月 5日
1431号
1
3
55歳・男 会社員   42,114,000円 \27,000,000 \27,701,492 植物状態
H
名古屋地裁 平成14年
1月28日
1443号
1
3
18歳・男 高校生   96,524,000円 \22,000,000 \40,514,124 意識障害
I
東京地裁 平成14年
3月27日
1443号
1
3
27歳・男 菓子店勤務   96,193,000円 \24,000,000 \26,050,597 半身麻痺
J
名古屋地裁 平成14年
8月19日
1471号
1
3
19歳・女 専門学校生   67,951,000円 \26,000,000 \65,926,300 四肢麻痺
K
京都地裁 平成14年
9月 5日
1471号
1
3
19歳・女 予備校生   68,870,000円 \30,000,000 \73,166,440 意識障害等
L
千葉地裁 平成14年
10月29日
1473号
1
併合
55歳・男 会社員   39,866,000円 \26,000,000 \35,104,160 高次脳機能障害
M
大阪地裁 平成14年
8月29日
1479号
1
3
72歳・女 無職(年金受給)    6,919,000円 \15,000,000 \26,868,216 意識障害
N
大阪地裁 平成14年
7月26日
1480号
1
3
52歳・男 韓国籍男子   21,841,000円 \24,000,000 \20,987,500 遷延障害

● 逸失利益のみで損害額1億円超過認定事例

 近年逸失利益のみの損害額で1億円を超える事案が増えてきている。
 上記一覧B東京地裁 平成13年 7月31日(本紙1415号)では、第5胸髄以下完全麻痺の1級後遺障害を残す24歳男子大学生の逸失利益が¥120,085,000円認定された。
 最高額は、福岡地裁 平成11年4月27日判決(本紙1311号)の1億4,914万円があり、近年6件程度認定されてる。
 ほとんどが男子大学生か男子若年(20代)会社員であり、総認容額も2億円を超える高額事例も出ている。
 日弁連・交通事故損害額算定基準(2002-18訂版)による、平成12年の全労働者の平均年収額は約497万円、過去5年間の推移を見ても年収増加額は僅か約2万円である。 これに対し、損害算定額では慰謝料や介護費用、家屋改造費用などの費目で上昇が見られるため、年収増加率をはるかに上回る総損害額の上昇率であるのが実情である。


● 中間利息控除

 上記一覧の事例ほぼ全件が中間利息をライプニッツ係数を用いて控除して損害算定している。
 これは、平成11年11月22日に東京地裁・大阪地裁・名古屋地裁の交通事故集中部の3部による「交通事故による逸失利益の算定方式についての共同提言」(判例タイムズ1014号62頁参照)が出されて以後、中間利息控除を3地裁ともにライプニッツ係数を用いて算定する方向が示されて以後、大多数の訴訟事例でライプニッツ係数を用いて算定されている。
 上記一覧でも、一部L千葉地裁 平成14年10月29日判決のみ介護料、逸失利益は、事故日から症状固定時までの中間利息をホフマン式で控除するとしたが、将来に亘る逸失利益算定などはライプニッツ係数を用いている。


● 将来介護費用

 同じ1級後遺障害に罹患しても、被害者の年齢、具体的な症状部位、実際の生活状況、および公的扶助の活用などで将来介護費用にかかる損害額は大きく開きがある。
 最も高額となるのが職業介護人を用いた場合の額であり、現在近親者における介護費用が5500〜6000円であるのに対し、職業介護人は10,000〜12,000と2倍超になる場合もあり、近親者か職業介護人のいずれかで損害額も大きく開きがあるため、いずれかを選択することが損害額を大きく左右する。
 基本的には、同居する近親者で介護が可能であれば、近親者介護で認定となるも、家族環境や年齢によって、双方を使い分けるケースも多々見られる。
 例えば、若年者が被害者となり、同居する親が介護するとしても親が高齢になるにつれ、介護も困難となるため、途中から職業介護人として損害認定するケースなどである。
 上記一覧で最も高額であるのがK京都地裁・平成14年9月5日判決(本紙1471号)の\73,166,440円であるが、これは「母1人子1人の家庭で母が疾患を有していることから、母が60歳に達するまでの6年間日額を7,000円とみて以降余命分日額を1万2,000円で将来介護料を認めた。」ものである。
 最近の事例では、以前に比し、より具体的に被害者の状況を考慮して損害認定している事例が多くなっている。


● 介護費用と公的扶助との関係

 行政による介護保険法の制定により、近年、重度障害のため日常生活を送るのに支障のある身体障害者に対しホ−ムヘルパーなどを派遣する訪問介護サービスが公的扶助として行なわれるようになった。
 特に、国土交通省は交通事故で重度後遺障害を負った被害者に対し、介護支援の強化に伴ない、家族介護での給付金やヘルパー、家政婦派遣などで一部費用を負担する制度を2001年7月から施行したことを受け、これを損害賠償で如何に考慮して損害算定するかが課題となっている。
 施行後間もない事もあり、まだ判決に反映されてる事例も少ないが、
 一覧の中にある、F大阪地裁・平成13年6月28日(本紙1431号)では、「ホームヘルパーの助力を得て、同居の長男が介護を行なっていることから余命年数分を日額5,500円の割合で将来介護費用を認めた。」として、介護ヘルパーの扶助を考慮して損害認定している。
 過去の判決では、仙台地裁 平成9年8月28日判決(本紙1247号)で、「日常生活動作の一切に介護を要し、公的扶助施設で介護を受けている26歳男子の将来の介護料が週2日、年末年始分等加え、年114日分、日額5,000円で認めた。」という事例があり、公的給付を加味した実態ベースの損害を認定する一方、
 京都地裁 平成14年2月7日判決(本紙1443号)では「介護保険法の適用を受け、施設に入所することで自己負担額は月5万円未満で利用できるが、「手許に置き余生を送らせたいとする真摯な気持」で自宅介護を望むことは社会的相当性を逸脱した過分な費用とは考えられないと、日額1万円を基礎に将来介護費用を認めた。」
 とした事例もある。
 仮に被害者が若年者で、余命があと60年や70年以上も残されている場合、将来介護費も数千万円の高額となるため、今後の一層検討する場が必要であると思われる。


● 高次脳機能障害と介護費用

 大脳損傷により主として認知障害と人格変化を伴ない、失語・失行、健忘障害、徘徊や暴力といった多岐に亘る症状を呈するのが高次脳機能障害である。
 この高次脳機能障害を、損害賠償、とりわけ将来介護費用でどのように判断するかは課題と言えよう。
 介護の特徴として、食事、排泄、入浴などといった日常生活の基本的な動作に関しては、通常人と同様である場合が多いのに対し、外出時の行動、例えば目的地まで1人で行くことや、1人で買い物に行って特定の品物を買ってくること、または第三者と円滑な対人関係を築くといった社会性のある行動に関して大きな支障を来す場合があり、介助者は肉体的な労力よりも、むしろ四六時中つねに行動を看視しているといった精神的な苦悩が伴なうのが介助の実情である。
 また、一言で高次脳機能障害といっても、個々の被害者の症状の程度で全く異なり、被害者の実態を加味して算定することが望まれよう。
 上記L千葉地裁 平成14年10月29日(本紙1473号)では、「対介護者との関係では尿便失禁、感情失禁、徘徊等、寝たきり患者に比べて楽とはいえないと、将来介護費用が近親者日額6000円、週2回の割合の職業介護人費を合わせて認めた。」としている。
 これ以外の事例では、Lと同様号に掲載した東京地裁八王子支部 平成14年7月4日判決(本紙1473号)「火の後始末を忘れてしまう」、介護人妹、兄嫁に暴行する等高次脳機能障害による易怒性等から常時介護は必要ではないが、常時自宅に待機していなければならない」ので「1日あたりの介護料を6,000円とする」と認定した。
 など、より被害者の実態面を把握した損害認定がなされていると思われる。
 いずれにしても、未だ医学的な解明が残されていると言われる高次脳機能障害につき、先例を踏まえ、実態面を如何に加味して適切な介護費用を認定するかが重要であることは言うまでもない。

以上。

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